
スポーツ運動を見ることができるかという問いがあったときに、多くの方は「はい」と答えると思います。運動中の動きを見るという営みは、一般に「運動観察(Obsavation of human movement)」と呼ばれます。スポーツ運動学において「運動観察」は、単に「見る」ということの範囲を超えて「見抜く」というレベルまで含むことになります。つまり、何をやったのかを把握するだけでなく、どのようにやったのかを把握するということです。
例えば、バレーボールのスパイクの動きを行った選手がいるとします。その時のコーチはスパイクの動作のどの部分を見ているのでしょうか。仮に、ボールが相手コートに落ちて得点が決まったという結果のみを見ていたとしたら、そのコーチは失格かもしれません。選手がどの位置から助走をしてどの脚で踏み込み、跳び上がる方向や空中姿勢、肘の使い方、目線の位置まで<見抜けて>いるでしょうか。この選手が、例えば“肘の使い方を修正しよう”と意識してスパイクして、改善が見られた場合、コーチはその肘の使い方を厳密に観察して「今のは良かった!」というフィードバックをしなくてはいけないのです。
U.NEISER(1976)は、視覚にとって最も重要な認知構造は〈予期図式〉(anticipatory schema)と呼ばれるものであると述べています。それは、他の情報と比べて、ある特定の情報を選択的に受入れ、それによって見る活動をコントロールということです。つまり、今からスパイクをする選手がいたら、コーチは動作が開始する前に“肘の動かし方に注目して見ておこう”と予め見方を規定しておくのです。もちろん肘だけを見ているわけではありませんね。その他の関係する身体部位も見ているわけです。逆にこのような予期図式の形成が未熟で観察の内容をコントロールできない人は、運動を見ることができないのです。
スポーツの指導現場では、運動を詳細に見抜いて細かい部分まで指導されている指導者を目にすることがあります。このような運動観察の能力は、実技経験を含めた運動指導経験が大きなカギを握ることになります。皆さんも一緒に指導者の運動観察能力について考えてみましょう。
スポーツコーチング・スポーツ運動学
短期大学部 体育学科
