至学館の豆知識

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2024年11月

水の持つ力「プールに入って健康になろう!」

 みなさんは泳ぐことは好きですか?実は水には健康増進に繋がる4つの力があるのです。今回は、この4つの力について紹介したいと思います。
 1つ目は「浮力」、水に入ることで体にかかる荷重は軽くなると言われています。 肩まで水に浸かるとなんと荷重は陸上の10%になるのです。 つまり、足腰に不安を抱えていたり、陸上で怪我をしてしまった場合などでも安心してリハビリテーションが可能になります。
 2つ目は「抵抗」、水中は空中と比べると800倍以上の密度があるため、水中を移動するとまとわりつく水を押しのけて進むのがとても大変です。 この抵抗は表面積に比例し、速度の3条に比例すると言われています。 したがって、水中を動かす物体の形や速度を変えることで、様々な筋力トレーニングが可能になります。
 3つ目は「水圧」、水は量が増えるとその重みによって圧力が変化して行きます。 つまり、水の深いところに行くほど水圧は高く、水面ほど低くなります。 この力を利用すると、人がプールに肩まで使った場合、水圧の高い足先から低い心臓部分に向かって血液を絞り上げるマッサージ効果を引き起こすことができるのです。 この力によって水中で人の心拍数は、陸上よりも10%程度低くなることが知られています。 したがって、水中では陸上よりも楽に運動ができるのです。
 最後の4つ目は「水温」です。基本的にプールの水温は体温より5度以上低く設定してあります。 先ほど述べたように水の密度は極めて高いので、水中では陸上と比べてはるかに速い速度で体の表面から熱が奪われて行きます。 水に浸かっているとブルっと体に震えが来るのはこのためです。このように体温が奪われやすい環境では、筋肉は余計に熱を出そうとします。 熱量はカロリーで表されるように、水中では陸上よりもたくさんのカロリー消費が可能となるのです。 水中で運動すればするほど陸上よりも遥かに高いエネルギーが利用されることから、体を引き締めたい人などに極めて有効だと思います。
 以上のように水には体に良い影響を及ぼす4つの力があります。これを読んだ皆さん、ぜひプールに足を運んで下さい。

運動生理学
健康科学部 体育科学科
教授 髙橋 淳一郎


2024年10月

「桶狭間の戦い」の学術研究と社会科教育の接点 ~歴史の謎解き~

 至学館大学の北方へ車を10分~15分ほど走らせると、名古屋市緑区、豊明市に各々桶狭間の戦いが繰り広げられたといわれる一帯が広がっています。 桶狭間の戦いとは1560年に尾張の小大名であった織田信長が京へ上る大大名今川義元をわずかな兵で倒し、天下統一への足掛かりを作った戦いです。 約二万五千の軍を率いて尾張に攻め入った義元は、沓掛城(豊明市)から大高城(緑区)に向かう途中、桶狭間で休憩し昼食をとっていました。 ところが突然、激しい雨が降り出しました。 そのすきをうまくついた信長が約三千の軍で奇襲をかけたのです。ろうばいする義元軍はあえなく討ちとられてしまったのです。
 ここで歴史の謎解き!「信長軍約三千人の少数軍が義元軍約二万五千人の大軍にどうして勝つことができたのか」ということです。
 以前より信長軍の桶狭間までの進路については『迂回奇襲説』が通説として語られていました。 「織田信長は善照寺砦から間道を通って田楽狭間の背後の太子ヶ根山に回り、谷底に布陣していた今川義元に対して奇襲を行った」と考えられてきました。 この迂回奇襲説を信長の天才的作戦として世間に広めたのは『日本戦史 桶狭間役』(1899年)に全面的に依拠して桶狭間合戦を活き活きと叙述した徳富蘇峰の『近世日本国民史』でした。
 これに対し1980年代、在野の歴史研究者である藤本正行氏は、『信長公記』を丁寧に読み解き、同書には信長軍が大きく迂回して今川軍の背後をとったという記述がないことを発見しました。 すなわち、『信長公記』には、善照寺砦の信長は、家臣たちの反対を「ふり切って中島へ御移り候」と明記されています。 これに従えば、信長は善照寺砦からすぐ南の中島砦に移っているのです。 善照寺砦から中島砦を経由して義元が布陣する「桶狭間山」に至る直線的な最短ルート(約三キロメートル)を全速力で急行したという、いわゆる『正面攻撃説』です。 以後、様々な論争、説があったようですが、この『正面攻撃説』が今では有力視され、近年のNHKで取り上げる「桶狭間の戦い」を解説した歴史番組や最近の大河ドラマ等は、この説を採用しています。
 ここで私の過去の社会科実践・歴史学習に話を移す(全授業記録は写真の本に掲載)と、子どもたちは「兵の差がこんなにあるのに、正面から攻撃したら、なおさら信長に勝ち目はなかったのではないか」「どうして勝てたのだろう」という素朴な疑問が湧きあがりました。 桶狭間でのフィールドワークや資料等を調べていくうちに「鷹狩りにきていてその地をよく把握していた信長は悪天候での戦いは得意だった。 天気がたまたま味方した。・・・運がよかった。」「義元は酒を飲んで油断していた。」「やはり、奇襲攻撃をしないと勝てない」等、この歴史の謎に対して、子どもたちが様々な説を各種資料を根拠にして立てるようになっていった。 「運がよかった説」「酒をのませた説」「奇襲説」でどの説が一番有力かを話し合いました。 激論が展開されました。このあと、さらに全国に歩み出した信長の人物像を意欲的に安土城や岐阜城等へ出かけて調べていく歴史トラベラーがどんどん出てきました。
 このように、知識注入の画一的な社会科授業ではなく、歴史(社会)の謎解き、子どもたちの切実な問いを生かしながら社会科を楽しく学ぶ授業方法、教材研究法、初期社会科から大切にされてきた問題解決学習の理論を本学で学んでいきます。 子どもが一生憶えている社会科授業を一緒にめざしませんか。 至学館大学の近くにこんな歴史があり、子どもにとって有益な地域の歴史的教材となる可能性が秘められているのです。


社会科教育学
健康科学部 こども健康・教育学科
教授 出井 伸宏


2024年9月

ゼブラフィッシュの心臓は損傷しても完全に再生できる!

 新型コロナウイルスの感染拡大が落ち着きを見せている今日ですが、行動が制限され皆さんの生活が変化したことは記憶に新しいのではないでしょうか。
 人は心筋梗塞を起こすと突然死を起こすこともあります。生存できたとしても損傷を受けた部分は線維化を起こして瘢痕化して本来の心臓の機能を失って心不全状態になってしまうのでとても困ります。
 ところがモデル動物として使われるようになった熱帯魚の仲間のゼブラフィッシュの心臓は、損傷を与えても完全に再生する能力を持っています。
 ヒトの心臓とゼブラフィッシュの心臓の何が違うのか世界中の研究者たちが注目して研究を進めています。最近わかってきたことは、ヒトの心臓は線維化を起こしたら、それで修復は終わってしまいます。
 しかし、ゼブラフィッシュ線維化して瘢痕組織を作り出した後に、瘢痕を溶かす能力がある細胞が掃除をしてくれます。掃除をする細胞なマクロファージと呼ばれる免疫系の細胞で、瘢痕組織のコラーゲン線維を分解します。分解して新しい空間を作り出した場所に新しい心筋の再生が起こります。
 この掃除屋さんの役目はとても大切です。掃除をする細胞を活性化するのにアドレナリンの作用が必要です。
 元気にしていると、傷を受けても治りが早いことと、損傷局所でアドレナリンが分泌されることと、どこかでつながっているのかもしれません。
 面白いことに、発生初期の背中の神経管の側にある細胞が心臓の中に移動して、その細胞からアドレナリンは分泌されているらしい。その細胞は神経堤細胞と呼ばれている細胞群です。交感神経節細胞、メラニン細胞など様々な臓器を作り出すとても興味深い細胞群です。
 この細胞群の機能を使えば、将来的にヒトの心臓も再生できるようになるかも知れませんね。

臨床医学・臨床栄養学
健康科学部 栄養科学科
教授 三浦 裕


2024年8月

プロスポーツのビジネスはコロナ禍で進歩した?衰退した?

 新型コロナウイルスの感染拡大が落ち着きを見せている今日ですが、行動が制限され皆さんの生活が変化したことは記憶に新しいのではないでしょうか。
 プロ野球やJリーグといったプロスポーツのビジネスも例外ではありません。無観客試合や人数制限といった措置がとられ、従来のようにファンに足を運んでもらい楽しんでもらうことができなくなりました。
 しかし、ファンに楽しんでもらう活動、ファンを増やす活動を諦めるわけにはいきません。そこで、プロスポーツチームは様々な戦略を進めました。
 例えば福岡ソフトバンクホークスは「ホークスTV」というサブスクリプションサービスを始め、普段は観戦する機会が少ない2〜4軍の試合や過去の名シーンを配信し、ファンの満足度を高めるサービスを行いました。また、Jリーグでは「投げ銭サービス」を始めました。
 これは素晴らしいパフォーマンスやクオリティに対して、ファンが称賛の意味を込めて少額の寄付をするサービスです。試合内容によって金額が変動しますが、ファンのチームに貢献したいという思いを形にしたサービスとなっています。
 このようにコロナ禍という緊急事態でしたが、その状況の中で解決策を考え、プロスポーツのビジネスが進歩しました。皆さんもピンチの時は、視野を広げて解決策を考えてみてはいかがでしょうか?成長に繋がる新しいアイデアが生まれるかもしれません。

スポーツマネジメント
健康科学部 健康スポーツ科学科
助教 八尋 風太


2024年7月

人の身体は本当に良くできている

 人は転んで膝に傷したとき、ある程度時間がたてば再生されて治っていきます。よくよく考えると当たり前のようですが、すごい事と思う人も多いかと思います。
 しかし、骨のような硬い組織は、生まれて大人になるまでは子供の骨から大人の骨へと成長するのはわかりますが、一度できあがったらそのまま変わらないように思いますよね。
 実は目には見えませんが、絶えず壊れて体に吸収され、新しく元気に生まれ変わっているのです。もちろん個人差はあるとしても10年くらいかけて生まれ変わっているんですね。
 このような体の再生能力をリモデリングといいます。骨折した時もリモデリング現象でくっついて元にもどります。子供の骨折なんかは、まっすぐな骨が折れて、少々曲がってくっついても、元のようにまっすぐに治っていく能力も持っているんですね。私たち人はすごい能力を持った生き物なんです!

アスレティックトレーナー
健康科学部 体育科学科
教授 佐藤 丈能


2024年6月

小学校・中学校における長期自然体験活動

 「自然体験活動」って漢字6文字と長く、何かな?と思いますよね。簡単に言うと小学校や中学校で行われる「キャンプ」、「野外活動」です。小学校、中学校では宿泊を伴う体験活動の実施が推奨されています。自然の中で行う体験によって、個人の精神的な成長だけではなくクラス等集団の成長も期待できることから、多くの小学校、中学校で実施されていますので経験している人が多いことでしょう。
 自然には虫が多くいたり、便利な生活ではないので楽しくなかった人もいると思いますが、キャンプファイヤー、野外炊事、ハイキング、星空観察、海や河川での活動、山での活動など、思い出に残る活動がたくさんあるのではないでしょうか。
 しかし、新型コロナ感染症、学校での学びの内容の多様性、教師の働き方改革など多くの要因から、自然体験活動の実施日数が少なくなり、今では1泊2日が主流となり体験の機会が非常に少なくなっています。自然体験活動は、期間が短いよりも長い方が個人の成長の効果が現れやすいという研究結果が出ています。私は、特にこどもや青少年が自然の中で、他人と協力して、何かを成し遂げる機会がある自然体験活動を、少しでも長期間で実施して欲しいと願っています。
 その中で、継続して長期間の自然体験活動を実施している都道府県・市区町村を紹介します。兵庫県では、全ての小学校5年生が4泊5日の「自然学校」を30年以上継続して実施しています。東京都武蔵野市では「セカンドスクール」として30年以上前のスタート時では1週間程度で実施し、現在でも小学校5年生で5泊6日、小学校4年生の「プレセカンドスクール」は2泊3日、中学校1年生で4泊5日と長期間で実施しています。この他にも東京都江戸川区立の小学校5年生の3泊4日の「ウインタースクール」として雪の活動が実施されています。

野外教育
健康科学部 こども健康・教育学科
教授 時安 和行


2024年5月

ムスリムの食と誤解

 近年、日本にも多くの移民がやってくるようになり、様々なバックグラウンドを持つ人々が日本中に定住するようになっています。その中でも、イスラームの信徒であるムスリムの国内人口は多く、ヒジャブなどを着用する人の姿も街中でよく見かけるようになりました。早稲田大学の店田廣文名誉教授らの調査によると、2020年末には約23万人ものムスリムが国内に暮らしていたということがわかっています。
 イスラームと聞くと、厳しい戒律を思い浮かべる人も少なくないでしょう。豚肉やアルコール飲料の摂取が固く禁じられていることは特によく知られています。そのような食に対する制限があるためか、最近誤解を受けることが多いものに、「ハラール(食)」があります。
 国内においては食と関連づけられていることが多いものの、ハラールとは、神と預言者ムハンマドがクルアーンとハディースの中でムスリムに対して許可したものであり、実は食べ物や飲み物についてだけ関連するものではなく、ムスリムの日常生活のあらゆる場面に関わることを含んでいるものです。認証を受けたハラールな食品には、下の図にあるような「ハラールマーク」が付けられますが、ムスリムはこういったハラールマークがついているものしか食べることができない、というのは誤解です。ハラールマークはあくまで指標の一つに過ぎず、マークのないものでもハラーム(禁じられたもの)でないものであれば食べることができます。
 もしムスリムの友人ができたら、遠慮せず食事に誘ったり、料理で交流を深めてみてください。ただその際には、調味料等を含めて料理に使われているものを、原材料表示等を一緒に確認して、食べられるものかどうか確認することを忘れずに!油脂類は動物由来なものもありますので、注意が必要です。

比較文化研究
健康科学部 栄養科学科
助教 二村 洋輔


2024年4月

バットの芯とはどんなこと

 重さのあるすべての物には、重心という重さの中心点があります。バットの重心は指で支えてバランスが取れる場所にあります。また、バットにボールを当てると振動が伝わります。
 ボールが当たった場所によって振動の伝わり方が違います。芯に当たると不思議なことにあまり振動が伝わってきません。しかも、芯に当たるとボールが打った感触以上に遠くへ飛んで行きます。
 芯はボールを良く跳ね返す点なのです。その芯がどのようにして決まるかはまだ十分分かっていませんが、バットの重心と振動の特性、バットの形状、材質などが関わっていると考えられます。いずれにしろ、バットの芯とは、振動が伝わり難く、ボールを良く跳ね返す部分で、それは非常に小さい点のようなものなのです。
 

スポーツバイオメカニクス
健康科学部 健康スポーツ科学科
教授 飯本 雄二